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でんしゃのみえないでんしゃどおり

電車の見えない電車通り

宮本 百合子

「進歩」1934(昭和9)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,599 字 · 12 页

青空文庫

「ストライキをやってるってえから……電車動いてるじゃないか」

その芸者は黙って、安全地帯の上から珍しそうに通って行くバスの中をのぞき込み「お父さん」何とかと、云っている。

「車庫へ行って見よう」

やがて五十がらみの男はそう云って歩き出したが、芸者はそれについて二三歩あるいたきり、安全地帯からはなれず、頻りに四辺を見まわしている。

終点のまわりには、何ということなし、街の様子を見物に出ている子供づれの女や男が、安全地帯のところではなく、洋服屋の既成品のぶら下ったしたあたりに佇んでこっちを見ている。

六時すこしまわった刻限で、その場末の終点の光景は一種特別であった。市内から終点に向って来る電車はどれも満員で、陸続と下りる群集が、すぐ傍の省線駅や歩道の各方面にちらばるが、その電車が終点からベルを合図に市内に向けて出発する時はどれにも、ちらほらとしか乗客がのっていない。

一台ポールの向きをかえるごとに、安全地帯の上をコツ、コツ、歩いている赧ら顔に新しいカンカン帽をかぶり、縞ズボンに白い襟がついた黒チョッキ、黒上衣といういでたちのずんぐりした四十男が、

「××橋行きでございます。