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でんしゃていりゅうじょう
電車停留場
豊島 与志雄
「女性」1923(大正12)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,082 字 · 31 页
それがせめてもの腹癒せだった。相手が逃げようとすればするほど、彼はしつこく絡んでいった。
「本署へ同行を拒む以上は、君自身の心に後ろ暗いことがあるのだろう。後ろ暗いことがなければ、一緒に来るがいい。兎に角君は、公衆の面前で暴行を働いたのだから、このまま見過しては治安を害する。警官としての僕の職分も全うしないことになるのだ。君に罪がなければ即時に放免してやる。一緒に来給え。」
高倉玄蔵はじっと唇をむすんで、びくとも動かなかった。その肥大な体躯の中で、何等かの決意に迷っているらしかった。その様子を眺めて、沼田英吉は何かしらぎくりとしたが、さあらぬ風に嘯いて、相手の言葉を待受けた。
三秒四秒と、緊張した沈黙が引続いた。群集は益々ふえて、片唾をのんで待受けていた。後ろの方でひそひそと囁く声が、その不安な空気を更に濃厚にした。
然るに、意外なことで沈黙が破られた。群集の中から、パナマ帽を目深に被り、仕立下しの薄茶色の洋服をつけ、握り太のステッキを手にした、可なりの年配の男が、つかつかと出て来て、二人の前に立止った。
「もうどちらもいい加減にしたらどうだい。おとなしく別れてしまった方が得策じゃあないか。