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でんしゃていりゅうじょう

電車停留場

豊島 与志雄

「女性」1923(大正12)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,082 字 · 31 页

青空文庫

相手がどんな怪我をするか分りませんからね。」

高倉玄蔵はすっかり悄気かえった風で、黙って首垂れていた。安藤竜太郎はそれを眺め、次に眼を転じて、もう落付いてる沼田英吉の顔色を眺め、それから、静かな群集を一わたり見廻して、或る擽ったいような得意の念を覚えた。そして頭を軽く動かして、独り自分の胸にうなずいた。何をだかは彼自身にも分らなかったが、そうすることによって、漠然とした安逸な肯定感が胸にしっくり納ったのである。

そこで彼は一寸口髯の先をひねって、快い微笑を浮べながら、誰にともなく云った。

「じゃあ、これで失敬。」

然し彼の心は、「御機嫌よう」と云っていた。それを彼は胸に抱きしめて、一寸間を置いて、三四歩進みだした。

その時、何処からともなく可なり大きな石が飛んできて、身を反らし加減にしている彼の、右の鎖骨の所へはっしと中った。

「あっ!」と彼は思わず声を立てて、鎖骨の上を掌で押えた。

石を投ったのは、下宿屋の息子の今年十六歳になる、矢野浩一という不良少年だった。彼はその時、佐伯三千子という、やはり同年配の不良少女と連立っていた。

矢野浩一は以前から、佐伯三千子に心惹かされていた。