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でんしゃていりゅうじょう

電車停留場

豊島 与志雄

「女性」1923(大正12)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,082 字 · 31 页

青空文庫

酒に酔った赤黒いその横顔が、自分を嘲ってるように思い做された。

「車掌台に乗るのは規則違犯ですから、中の方へお願いします。」

「何が規則違犯だ!」と男はまた怒鳴り返えした。「満員の時は乗せるじゃないか。規則規則って、いやに鹿爪らしいことを云うない。」

そうなると木原藤次は、自分の職務をはっきりと身内に感じてきた。その上、乗降口と反対の方の車掌台に立っている二三人と、車内の吊革にぶら下ってる人々とから、物珍らしげな視線が一時に集ってきた。もうそのまま引込むわけにゆかなかった。

「規則は規則です。」と彼は云った。「中が一杯なら兎に角、中があいてるから、中へはいって下さらなければ困ります。其処に立っていられちゃあ、乗り降りの邪魔になるじゃありませんか。」

「どこが邪魔になるんだ?」と云って洋服の男は一方に身を寄せた。「こうしていりゃあ、いくらでも通れるじゃないか。通ってみろ、さあどこが邪魔になるんだ? 生意気な、人の肩を小突きやがって! 車掌なら車掌らしく、もっとおとなしくしろ。それで車掌の役目が務まると思ってるのか、馬鹿っ!」

そして彼は変に引歪めた顔を、相手の方へ近寄せてきた。