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しもばしら

霜柱

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1960(昭和35)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,328 字 · 29 页

青空文庫

男は喉を撫でながら咳をし、仰向きに伸びたまま喜兵衛を見た。

「すると」と男はしゃがれ声で云った、「五十両はだめか」

「出てゆけ」と喜兵衛が云った。

「たった五十両、安いもんだがな」男は咳きいり、喉を撫でながら、ゆっくりと起き直った、「おう痛え、喉ぼとけが潰れるかと思った、おめえおっそろしく強えんだな」

喜兵衛は黙って立っていた。

「こうとは知らなかった、どうやら相手をまちげえたらしい、おめえなら話はわかると思ったんだが、おう」と男は喜兵衛を見て、わざとらしく首をすくめた、「そんなおっかねえ顔をするなよ、足がふるえて立てなくなるじゃねえか、いますぐに出てゆくよ」

男は掛け声をして立ちあがり、大げさによろめいて、また喉を撫でた。

「しようがねえ、もう運の尽きだ」男は溜息をついて云った、「じたばたしても始まらねえからおやじの名を出すとしよう」

喜兵衛はなお黙っていた。

「勘当されても血はつながってる」と男は続けた、「当藩の家老、繁野兵庫の子だ、義十郎だと素姓をあかせば、まさかやつらも手は出せめえ、これからは繁野義十郎を看板に、大手を振って歩いてやるぜ」

「この城下のことはそれで済むかもしれない、だが海道筋に人相書の廻っているという、凶状のほうはどうだ」