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きりのなか
霧の中
豊島 与志雄
――「正夫の世界」――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,920 字 · 40 页
大きな不安と期待……それが、家に帰るまで続き、夢の中にまで続く。
朝が楽しみだ。まだ太陽は出ない。白い朝、それからやがて赤い朝。道端の草にはしっとり露がおりている。大空の星がへんにぎらぎらしている。もう水田のものは川に戻ってしまったかしら? ウケのところまで、ゆっくり行くべきか早く行くべきか惑う。そして遂に、ウケに手をかける。ごつごつと手応えがするのは、大きいやつがはいってるのだ。引き上げる時に、ばちばちっとはねるのは、鮒や鯉や鮠だ。重くのっそりしてるのは、鯰や鰻や鰌だ。ウケからすーっと水が引いてしまう時は、失敗で、目高の類が四五匹か、或は全く何一つはいっていないこともある。うまくいった時には、ウケ半分ほどもはいっている。
正夫は毎晩ウケをつけにいった。一人では行けなかったが、その家に十七八歳の下男がいて、いつも一緒に行ってくれて、自分で大抵やってくれた。ほうほう鳥がいつもどこかで鳴いてるのが、楽しくもあり気強かった。或る晩、ウケを三つつけて、帰りかけると、遠くに燈火が一つ見えた。それが、水田の間の一筋の道を、こちらにやってくる。闇夜のなかの胸躍るような仕事のなかでは、燈火を持った者に出逢うのは嫌なことだ。