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あおいめがね

青い眼鏡

野村 胡堂

「富士」1929(昭和4)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,201 字 · 24 页

青空文庫

一

一

「アラ、皆さんお揃い、よかったわねエ」

素晴らしい年増、孔雀のように悠揚としてクラブの食堂に現われました。今は有名な美容術師で、派手な浮薄な、如何わしい限りの生活をして居りますが、元は外交官の夫人だったという噂のある村岡柳子、商売物の化粧品を、フンダンに使った厚化粧の埃及眉毛、濃い紅を含んだ唇も、なんとなく年齢を超越して仇めきます。

「イヨウ村岡夫人、相変らず大変な元気だね」

「まあ、宇佐美さん、断然久し振りねエ、何んという風の吹き廻しでしょう、近頃は私、貴方の禿げ振りを夢に見て仕様が無いのよ」

「御挨拶だね、もう少し愛嬌のある口上は無いものかね」

成程これは薄禿げた得体の知れない人物、本人は文士と名乗って居りますが、何処の雑誌へも新聞へも、曾つて名前の出たことの無い宇佐美六郎です。眉も目も鼻も口も、何んとなくのんびりして、頭の光る割には気の若い、何処か間延のした男、村岡柳子のような阿婆摺れには、丁度手頃のからかい相手かも知れません。

「二人が寄るともう口喧嘩だ、始末の悪い人達だね」

これは会社員島幾太郎、年の頃三十二三、五分もすかさぬ当世風の男前です。