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あおいめがね

青い眼鏡

野村 胡堂

「富士」1929(昭和4)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,201 字 · 24 页

青空文庫

「芳野さんの眼と私共の眼、――芳野さんだけ青い眼鏡をかけて居るということなの」

「そうだよ村岡夫人、頭の禿げて居る人間は賢いだろう。このちらしの裏には、青い唐草見たような地模様の上に、細い赤い字で銀座節の文句が刷ってあるのだよ。普通の眼、つまり普通の白い光線で見ると、其青い地模様と赤い文字が重なり合って紛れて居るから、どうしても読めないが、青い眼鏡をかけて見ると、青い地模様の線が、眼鏡の青い色に吸収されて、赤い地模様とその模様の中に書いた文字だけがはっきりと見えるのだよ。青い眼鏡をかけて見る代りに、青電球の光で見てもいい、つまり青い光をあてると、青の地模様が消えて、赤い模様と、その模様に紛れるように書いた文字だけが浮いて来るのだ。こんな事は、小学校の生徒でも知って居るよ、馬鹿馬鹿しい」

「まあ、宇佐美さんは見掛けより余っ程智慧者ねエ、どれどれ芳野さん、貴方の眼鏡を一寸拝借――なるほど、これは面白い、『向う通るはスターじゃないか、青い眼鏡が気にかかる』――はっきり読めるから不思議ね」

美しい美容術師は、夢中になってちらしの裏を読み耽って居ります。

「宇佐美さん、私はすっかり貴方を見損なって居たわ、そんな禿頭に、こんな特別上等の智慧があろうとは、どうしたって思えなかったんですもの、御免なさいよ」