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あおいめがね

青い眼鏡

野村 胡堂

「富士」1929(昭和4)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,201 字 · 24 页

青空文庫

早速自動車を飛降りて、駆け付けた花房一郎、

「すみませんが、一寸その信号灯を貸して下さい」

「それは困ります、もう終電車が来る頃ですから」

信号手は迷惑そうにして居りますが、花房一郎は重ねて、

「いや、決して手間を取らせるわけでは無い」

忙しくくりひろげた先刻のちらし、信号灯の青い光りにその裏を照すと、青色の地模様は消えて、

……銀座銀座と通う奴馬鹿よ……

はっきり銀座節が読めるだけ、外に何んの変ったところもありません。

「ハテナ」

花房一郎は、暫らく其のちらしを信号灯に押し付けて、くり返しくり返し眺めて居りました。

「アッ、もう電車が来ました、退いて下さい」

押し除けられてよろけるはずみに、花房一郎の頭脳の中にはチラリと天来の霊光が射しました。

(あッ、あれだあれだ、青い眼鏡で見れば、赤い地模様と赤色で刷った文字だけが読めるが、若し、若し赤い眼鏡で見たら何が読めるだろう、青い細かい地模様と見えたものの中に、何んか外の文字が隠されて居なかったろうか)

斯う考えると花房一郎、信号手の取り上げた信号灯の赤の方の窓へ、あわただしくそのちらしの裏を持って行きます。