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あおいめがね

青い眼鏡

野村 胡堂

「富士」1929(昭和4)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,201 字 · 24 页

青空文庫

「芳野さん、貴方の読んだのは、そりゃア何?」

「あら。村岡さんも先刻入口で貰って入らしったじゃないの、国民劇場のちらしの裏よ」

「国民劇場のちらしの裏? 何んにも書いてはしないわ、緑の地模様の上に、赤い線が滅茶滅茶にうねらしてあるだけよ」

「どれ拝見、――あら、村岡さんのにだって、ちゃんと同じ文句が刷ってあるじゃないの、最初は――銀座銀座と通う奴ア馬鹿よ、帯の巾ほどある道を――って」

「どれどれ芳野さんのを拝見」

二人の美人は、銘々のちらしを換えて読みましたが、結果は全く同じ事でした。芳野絢子の眼には、明かに銀座節が読まれますが、村岡柳子の眼には、相変らず緑と赤の交錯した、唐草模様のような複雑な地模様しか見えなかったのです。

「不思議ねエ」

「全くだわ」

驚き呆れる二人の様子を見て、二三人の紳士達は、かくしの中へねじ込んだのを出して皺を延したり床の上に落したのを拾って、土を払ったり、銘々に覗いたりすかしたりしましたが、劇場のちらしの裏には、矢張り得体の知れない唐草模様があるだけで、誰の眼にも銀座節などは見えません。

もう一つ不思議な事は、この小事件が起ったにもかかわらず、島幾太郎や、中島助丸や松井菊三郎はその疑問のちらしに、眼をくれようともしなかった事です。