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あおバスのおんな
青バスの女
辰野 九紫
「新青年」1929(昭和4)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,918 字 · 22 页
「それどころですか。私、ひどい目にあっちゃった。もう懲々、これからはもう御一緒に伴れて来て頂きませんわ」
こんな次第で自家へ帰ってからも、女房のぶつぶつは納まらなかったが、犬も喰わぬうさぎ屋の最中を食べながらの報告、――然りもはや抗議ではない――に依れば、あの青バスの車掌は、世にも珍らしい親切なる乗務振りであったという。
「五円のお両替はして頂くし、芳子ちゃんは抱ッこして下ろして貰うし、ほんとに助かったわ」
「へえ、彼女がか……」
「ええ、何もそんな事虚言いわないわ。それに仲々美人よ」
「あたい、あの車掌さん大好きよ。おんりさせて貰ったときあの姉ちゃんもそう言ったわ。――『お父ちゃん悪い方ね』って……」傍から幼稚生芳子まで口を出した。
「馬鹿ッ。お前までそんなことをいう」
「なにさ、あの姉ちゃん、知ってんの……」
「え、むむ」と息をついて、更に僕は女房に向って言った。
「オイ、あれが、その、あの……あれだよ」
「なんですの?」
「わからない奴だな。あれが、それ、去年の夏、俺が憤慨した女車掌なんだよ」
「マア、そう。――だって、あんな親切な車掌さん、めったにないわ。不思議ね」