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せいしゅんろん

青春論

坂口 安吾

「文学界 第九巻第十一号、第十二号」1942(昭和17)年11月1日、12月1日発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,657 字 · 69 页

青空文庫

何べんも渡航を催促する飛脚が来たが、彼は耳をかさず丹念に木刀をきざんだ。四尺一寸八分の木刀を作ったのである。

元来、小次郎は三尺余寸の「物干竿」とよばれた大剣を使い、それが甚だ有名であった。武蔵も三尺八分の例外的な大刀を帯びてはいたが、物干竿の長さには及ばぬ。のみならず小次郎は速剣で、この長い剣を振り下すと同時に返して打つ。この返しが小次郎独特の虎切剣であった。これに応ずるには、虎切剣のとどかぬ処から、片手打に手を延ばして打つ、これが武蔵の戦法で、特殊な木刀を作ったのもそのためだった。

武蔵は三時間おくれて船島へついた。遠浅だったので武蔵は水中へ降りた。小次郎は待ち疲れて大いに苛立っており、武蔵の降りるのを見ると憤然波打際まで走ってきた。

「時間に遅れるとは何事だ。気おくれがしたのか」

小次郎は怒鳴ったが、武蔵は答えない。黙って小次郎の顔を見ている。武蔵の予期の通り小次郎益々怒った。大剣を抜き払うと同時に鞘を海中に投げすてて構えた。

「小次郎の負けだ」と武蔵が静かに言った。

「なぜ、俺の負けだ」

「勝つつもりなら、鞘を水中へ捨てる筈はなかろう」

この間答は武蔵一生の圧巻だと僕は思う。