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せいしゅんろん
青春論
「文学界 第九巻第十一号、第十二号」1942(昭和17)年11月1日、12月1日発行
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,657 字 · 69 页
武蔵自身がそのことに気付かず、オルソドックスを信じていたのが間違いのもとで、元来世に容れられざる性格をもっていたのである。
武蔵は二十八の年に試合をやめた。その時まで試合うこと六十余度、一度も負けたことがなかったのだが、この激しさを一生涯持続することができたら、まさに驚嘆すべき超人と言わざるを得ぬ。けれども、それを要求するのは余りに苛酷なことであり、血気にはやり名誉に燃える彼とは云え、その一々の試合の薄氷を踏むが如く、細心周到万全を期したが上にも全霊をあげた必死の一念を見れば、僕も亦思うて慄然たらざるを得ず、同情の涙を禁じ得ないものがある。然しながら、どうせここまでやりかけたなら、一生涯やり通してくれれば良かったに。そのうちに誰かに負けて、殺されてしまっても仕方がない。そうすれば彼も救われたし、それ以外に救われようのない武蔵であったように僕は思う。鋭気衰えて『五輪書』などは下の下である。
まったくもって、剣術というものを、一番剣術本来の面目の上に確立していながら、あまりにも剣術の本来の精神を生かしすぎるが故に却って世に容れられず、又自らはその真相を悟り得ずに不満の一生を終った武蔵という人は、悲劇的な人でもあるし、戯画的な滑稽さを感じさせる人でもある。