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せいどうのキリスト

青銅の基督

長与 善郎

――一名南蛮鋳物師の死――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,703 字 · 133 页

青空文庫

そして「しばらく。」とどもるようにようやくいってあわててそこにすわり、べこんと頭を下げた裕佐のあかくのぼせた顔をちらりと見ると、かすかに苦しげな微笑をたたえながらまた弟に顔を向けた。が、その時彼女の頬にひらめくごとくさしたあか味は、四尺とは離れていなかった弟の目にもとまらないらしかった。

彼女が島田に結っているところを見るとまだ人妻でないことはすぐ知れることであったが、その縹緻と、年輩とをもっていまだに独身でいるのはなぜかという怪訝も同時にだれにも起こるはずである。一度ならず二度までも信者からの縁談を彼女が断わった真の理由を知っているものはただ弟の吉三郎のみであった。

「あの姉はね、母になることをおそれているんですよ。自分の運命が『畳の上で』息を引き取る者とは違うことをなんとなく迷信的に自覚しているのですよ。僕はそう思っています。」吉三郎はかつて裕佐にこういったことがあった。

「ああ、そう。」たちかけた彼女はまた何か弟にささやかれて無雑作に低くいった。「あのつまらない花をあなた、買ってくださいましたのですってね。おかげさまでこれだけでも飾りができましたんですのよ。