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あおおにのふんどしをあらうおんな

青鬼の褌を洗う女

坂口 安吾

「愛と美」朝日新聞社、1947(昭和22)年10月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,368 字 · 79 页

青空文庫

「ええ、まア、そうよ。綺麗な海ね。ここが私の家だったら。私、今朝からそんなことを考えていたのよ」

「まったくだなア。土俵、見物衆、巡業の汽車、宿屋、僕ら見てるのは人間と埃ばっかり、どこへ行っても附きまとっていやがるからな。なア、サチ子さん、相撲とりが本場所が怖くなるようじゃア、生れ故郷の墨田川へ戻るのが怖しくって憂鬱なんだから、僕はお前、こんなところでノンビリできりゃア、まったく、たまらねえな」

「花相撲に帰らなくってもいいの?」

「フッツリよした。叱られたって、かまわねえ。義理人情じゃア、ないよ。たまにゃア人間になりてえ。オイ、見てくれ。これ、このチョンマゲ、こいつだな。人間じゃないてえシルシなんだ。鶏に鶏の形があるみたいに、相撲とりの形なんだぜ。昔はこいつが自慢の種で、うれしかったものだけど」

私たちは米を持ってこなかった。エッちゃんが宿の人に頼んで一度は食べさせてくれたけれども、ほんとになくて困ってるのだから、なんとか自分で都合してくれという。私が財布を渡すと、ホイきた、とエッちゃんは立上った。

「ほんとに買える? 当があるの?」

「大丈夫大丈夫」

「じゃア、私もつれて行って」