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あおおにのふんどしをあらうおんな

青鬼の褌を洗う女

坂口 安吾

「愛と美」朝日新聞社、1947(昭和22)年10月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,368 字 · 79 页

青空文庫

しかし別にも一つの理由があるはずであった。彼ほど孤独で冷めたく我人ともに突放している人間でも、私に逃げられることが不安なのだ。そして私が他日私の意志で逃げることを怖れるあまり、それぐらいなら自分の意志で私を逃がした方が満足していられると考える。鬼は自分勝手、わがまま千万、途方もない甘ちゃんだった。そしてそんなことができるのも、彼は私を、現実をほんとに愛しているのじゃなくて、彼の観念の生活の中の私は、ていのよいオモチャの一つであるにすぎないせいでもあった。

田代さんはこの旅館へきてノブ子さんと襖を距てて生活して、いまだに目的を達することができずにいた。田代さんは三日目ぐらいに自宅へ泊る習慣で、その翌日は、きのうは私の奥さんを可愛がってやってきました、などとことさら吹聴したが、田代さんの通人哲学、浮気哲学はヒビがはいっているようだ。田代さんは人間通で男女道、金銭道、慾望道の大達人の如くだけれども、田代さんはこれまで芸者だの商売女ばかりを相手にして娘などは知らないのだから、私みたいな性本来モウロウたるオメカケ型の女ででもなければ自分の方から身をまかせるように持ちかける女などはめったにないことを御存知ないのだ。