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ひめいよきょうじゅのべん
非名誉教授の弁
和辻 哲郎
「心」1952(昭和27)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,519 字 · 11 页
わたくしはこの時になるほどと思った。欧米の社会のように社交の盛んなところ、従って教授などが学問の世界とはまるで違った方面の人々に接する機会の多いところでは、名誉教授という肩書きがなるほど物をいうであろう。人を呼ぶのにプロフェッサー何々と肩書きをつけて呼ぶ習慣のあるところで、大学を退職して急にプロフェッサーでなくなれば、ちょっと困るであろう。ゆえあるかなとわたくしは思ったのである。
しかしそうなると、社交界というもののあまりはっきり存在していない日本でも、肩書きの効用は相当にあるではないかということになる。その証拠には、肩書き付きの名刺を持っている人が日本には非常に多い。ということは、自分の名を自分の地位や身分と不可分なものとして相手に印象しようという意図が、一般的に存しているということの証拠である。これは一般に日本人が、未知の人を一個の人格として取り扱うとか、その人品骨柄に目をつけるとかいうことをしないで、ただその肩書きに応じて取り扱うという習性を持っているせいであろう。そうなると何々大学名誉教授などという肩書きも、毎日その効用を発揮し得るかも知れない。