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ひめいよきょうじゅのべん
非名誉教授の弁
和辻 哲郎
「心」1952(昭和27)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,519 字 · 11 页
しかしそれだけで一つの職業が成り立つというわけには行かない。学部によると、名誉教授室を設けて研究の便宜を計っているところもあるらしい。しかしそういうところでも、名誉教授には便宜を計るが、名誉教授に任ぜられなかった前教授に対してはそれを拒むというのではないであろう。余裕さえあれば、名誉教授にも非名誉教授にも等しく便宜を計っているであろう。そういう意図を明示するために、名誉教授室を前教授室と改称した学部もある。大学がかつての教授の研究に対して便宜を計ってくれるのは、学者としての個人に対する情誼であって、名誉教授に対する義務なのではない。室が足りなくなれば、名誉教授室などはどしどし撤回してしまうであろう。そのように名誉教授は、大学において何の権利も義務もないのである。
と思っていたところが、敗戦後教職追放の問題が起こり、各学部に審査委員会が設けられたとき、驚いたことには、名誉教授もまたその審査対象となったのであった。名誉教授は、その地位から追放すべきか否かを慎重審議すべきであるような、れっきとした「教職」なのであった。それなら宿帳に、無職とかく代わりに名誉教授と書き込んでよいはずである。