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おもしろみ

面白味

中谷 宇吉郎

「西日本新聞」1955(昭和30)年8月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,027 字 · 3 页

青空文庫

昔、伊東で病気を養っていた頃、東京の一流料理店の主人が、遊びに来たことがある。料理店を通じての友人ではなく、同郷の男である。

私にはよく分からなかったが、何でも非常な食通で、料理の腕も一流だという噂の男であった。それで女房が、伊東の材料で、何か料理を教えてもらいたいと頼んだ。

それで材料を買いに出たわけであるが、驚いたことには、この先生、道路の真ん中を悠然と歩きながら、「あの牛蒡は食える」とか「あのこんにゃくはいい」とか言う。指差す方を見ると、なるほど小さい八百屋の店先に、そういうものがならんでいる。

それらを買って来て、いろいろな料理をしてくれたのであるが、そのうちの牛蒡の煮附には、ちょっと驚いた。土のついた牛蒡を洗って、大きく斜めにさっさと切って、鍋に抛り込む。そして酒と醤油だけで煮附ける。それだけのことである。醤油など、一升瓶からドクドクと注ぎ込むので、大分過剰にはいったらしい。

食べてみると、果して塩辛い。「どうもこれは辛いようだが」と聞いても、先生すましたものである。「いい牛蒡ですよ。なかなか美味い。唯醤油が少しはいり過ぎたので、少し塩辛いだけだ」