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めんせきのあつみ
面積の厚み
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第十五巻(補遺)」河出書房、1953(昭和28)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,111 字 · 15 页
そうすれば、その人の買った面積には、厚みがついているのでは無いでございましょうか」
暫く口を噤(つぐ)んでいた先生は、やがて明かに感情を害した語調で、
「縦と横とをかけると面積が出るのです。そして、面積に厚みは無いものと、昔から定まっています」
と断言すると直ぐ、まだ立ったままの彼女に、凍(し)み透るような一瞥を投げたまま、黒板の応用問題に就ての説明を始めた。
この時始めて、彼女は自分のこれほど一生懸命な質問が、下等な意地悪からの揚足取りとして受けられていたことを知ったとともに、先生が自分に対して与うべき解決を持っていないことを知ったのである。
自分の疑問は勿論満されなかった。
けれども、そんな下らない事を楽しみにしたり、喜んだりするほど、こじっちゃ、卑しい人間にも見られるのかと思ったら、口惜しいような悲しいような涙が、ひとりでに滲み出して来て、何を云う気も無くなってしまった。
始終病気に許り見込まれて、苦労がいかにも多そうに瘠せ切っている先生を一人ぼっち、困らせたり間誤付かせることに成功したところで、それが何だろう。
それほど自分は下劣な魂に生れついてはいない。