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おんぱのさつじん

音波の殺人

野村 胡堂

「新青年」1936(昭和11)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,399 字 · 30 页

青空文庫

「――大将――、大変な事が――」

外交記者中の辣腕、早坂勇の声が、切れ切れに聴えます。

「何をあわてるんだ、勇、新聞記者に大変な事なんかあるものか、――尤も往来で借金取りに逢えば別だが」

「そんな馬鹿な事じゃ無い、長島若菜が殺されたんだ」

「何? あの流行歌手の若菜が!」

千種十次郎は噛んで居たピースを、糊壺の中へ捻じ込むと卓の上の足を床におろして、一生懸命卓上電話に噛り付きました。ニュースを呪っていた、ツイ今しがたの心持などは綺麗に忘れて、火のような新聞記者意識が、疲労も倦怠も焼き尽すように燃え上ったのでした。

「自分の宅で、拳銃で撃たれて死んで居るんだ、――犯罪はたった一時間前に行われたばかり」

「君は今何処に居るんだ」

「若菜の家だ、――フラリと警視庁へ行くと、捜査課の連中が、コソコソ繰り出す様子だからタクシーで後を跟けると、代官山の若菜の家じゃないか、表は警官が張番をして通さないから、女中を口説いて風呂場から入れて貰ったんだ、――グランド・ピアノの前に支那絨毯を血に染めて、仰向に倒れた若菜を見た時は、俺もギョッとしたよ、女が美いから、そりゃ凄いぜ」

「馬鹿だなア、――死骸なんかを眺めてぼんやりして居たんじゃあるまいな、――他社の連中は何うして居る」