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すまでらふきん
須磨寺附近
山本 周五郎
「文藝春秋」1926(大正15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,396 字 · 21 页
「遠慮なぞしないで、ゆっくり遊んで行ってくださいね、二人きりで寂しいんですから」
飯が終ると康子は女にしては鋭い瞳を動かせながら云った、清三はその瞳に威圧されるような気がした。康子は林檎をむいてくれた、清三は白い長い指が巧みに働くのと、果実の肌と刃物の触れ合う微妙な音を聞きながら、温い幸福な気持にひたっていた。
茶がすんでから、康子が月が佳いから浜へ行こうと云い出した。麦酒でぼうとなっていた清三はすぐ応じた、青木も立った。
浜には波がなく、淡い霧が下りて寂然としていた、三人の息は月の光を含んで白く冰った、青木は、月見頃になるとこの浜一面に藻潮を焚いて酒の宴を開く習慣があると話した、ことにそうしたとき、男たちよりも、女たちのほうがよけい騒ぐので、かなり婉めいた月見の戯が浜いっぱいに開かれるのだそうである、藻潮を焚いて月を待つという、歌めいた習慣に清三はなにか雅致のある懐しさを感じさせられた。
「おい相撲をとろう」
足の甲までさらさら没してしまう深い砂地に出たとき、清三はそう云って青木の手を取った、二人は踏応えのない砂の上で揉み合った、康子は微笑しながら見て立っていた、二人は勝負のつかぬ先に労れてしまった。