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すまでらふきん
須磨寺附近
山本 周五郎
「文藝春秋」1926(大正15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,396 字 · 21 页
清三は靴をはいている青木に云った。
「なあんだ」
青木は苦しそうに首を捻じ向けて案外らしい口吻で云う。
「もう知っているのか、嫂から聞いたんだろう」
「うん」
「俺ゃ、清水には内証にしておいてくれってずいぶん喧しく約束させられたんだぜ」
「へえ、そうかい」清三は康子の気持を探り当てた。
青木が寒いと呟きながら雨の中を出て行くと、清三は冷たい水で顔を洗った、茶の間には蠅帳を被せて食膳は出ていたがとても坐る気はない、重い不快な固りが腹の底に蟠っている。
冷たい清い空気を胸いっぱいに吸いたいような気がしたので清三は二階へ上って、北側の窓を開けた、雨の中に須磨寺や鉄枴山の峰が寒くかすんでいた。
「生きている目的が分かるか」清三は朱い山門の下で云った康子の言葉を想い出した。傘を開こうとしながら、横眼使いに自分を見た、女の色っぽい姿も眼に見えた。清三の眼の前で、山や森が呆と消えた。泪が続いて頬を流れた。