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すまでらふきん
須磨寺附近
山本 周五郎
「文藝春秋」1926(大正15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,396 字 · 21 页
「おい離せ離せ、息が切れて耐らん」
青木はそう云うと砂の上に腰をおとした。
「弱い人たち」
康子が月を背にして清三の顔を見下ろしていた、清三は手を腋の下にやった、そこが大きく綻びていた。
「ひどいやつだなあ」
青木も腋の下を視たが異常はなかった。二人は大きな声を立てて笑った。静かに淀んでいた夜霧が、二人の笑声でゆらゆらと揺れて流れた、康子もやがて二人のあいだに坐って足を投出した。
「御覧なさい、淡路島の灯が見えます」
康子の指示した遠い海の夜の帷のかなたに、ほとんど見えるか見えぬか分からないほどの灯がちらちらと揺れている、清三はほのかな気持で、ひっそりした海の上を見やった。青木はふいと立って、黙って汀のほうへ歩いて行った、清三も康子も無言のままその後を見送る、間もなく水の鳴る音がし始めた、青木が石を投げるのであった。清三は眼を閉じて、佗しい水の音をじっと耳で味った。
「いつごろまでいてくだすって」
呟くような康子の声が起った、清三は眼を開いて康子を見た、康子の面は月光を浴びて彫像のように崇高に見えた。そのときの彼女の顔から人間のものを求めたら、きらきら輝く瞳だけであったろう。