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すまでらふきん

須磨寺附近

山本 周五郎

「文藝春秋」1926(大正15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,396 字 · 21 页

青空文庫

ない、寺から右へ外れる小路を青木が先頭に立ってだらだら坂に下った。

「道が分からないってことは興味があるじゃないの」

康子が清三を振返って云った。

「なぜです」

青木が反問した。

「どこへ出るか疑問だから――」

「じゃその興味には不安が伴いますね」

「どうして――」

康子は落着いて思うことを順序よく言葉の上に配列した。

「だって興味というものは不安があるから起こってくるものじゃないの」

清三は、康子が自分の云いたいことを、上手に相手から抽出させる技巧に思わず微笑した、青木はふと立止まって、

「こりゃいけない、川だ」

と云った、康子は川があればたぶんそれに添って路が山上へ行くに相違ないと云った、三人は川を越した。康子が川の中に露れている岩の頭を飛び飛びに越して来るとき、清三は手を貸そうとした、康子は軽くそれを拒んだ、もちろん清三の親切を拒んだのではない、助けてもらうという弱さを見せたくなかったのだ、康子の笑顔で清三はすぐそれを看てとった、――道は何度も、迂回して来る川を横切っていた、従って三人はそのたびに危い川渡りをしなければならなかったが康子はとくにそれに興味があるふうだった。