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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

13 遠島船

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,621 字 · 25 页

青空文庫

「やい、櫓杭をまわせ、あの船に寄っちゃなンねえ」

「へッ、精霊船か」

「もそっと悪りいやい、あの船印を見ろ」

あからひく朝日がのぼりかけ、むこうの船の大帆がパッと紅に染まる。むきの加減で矢帆に隠れて見えなかったが、こんどはまっこうに見える。……艫の一番かんぬきのところに立っている白黒二両引の大吹流し。――遠島船の船印だ。

「やア、遠島船だ」

「畜生、縁起でもねえ」

「寄るんじゃねえ、寄るんじゃねえ」

「平吉めら、どこに眼のくり玉をくっつけていやがる。あの船印が見えなかったのか」

「そういう手前らだって……」

「やい、船をまわせ」

「返すんだ、返すんだ」

今まではずんでいたのが、急に気を悪くしてあわてて舳をまわす。

鰹船の禁物は第一は遠島船。第二が讃岐の藍玉船。遠島船にあうと鰹の群来が沖へ流れるといって、たいへんに嫌う。藍のほうはむかしから魚には禁物。魚にあたったら染藍を煎じて飲めというくらいのもの。このふたつは精霊船よりも恐い。

むさんに櫓を切って船を返そうとすると、船頭の喜三次が、このとき始めて声をあげた。

「待て待て、船をつけろ」

「えッ」

「船をつけろと言ってる」