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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

23 猫眼の男

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,960 字 · 24 页

青空文庫

事実のところザックバランに言えば、嫌がるのを無理やりに乗せられた……。

五月五日は、府中六所明神の名代の暗闇祭。大国魂さまの御霊遷のある刻限前に、どうでも府中まで駈けつけねばならぬ用事があって、甲州街道の駕籠立場まで来て、むこうっ脛の強そうなのを選んでいると、いきなり顎十郎にとっつかまってしまった。

「おお、ひょろ松じゃないか。大仰な旅支度で、いったい、どこへ行く」

正月の狸合戦以来、かけちがって半年近くあわなかったところだったので、ひょろ松も懐かしく、顎十郎のそばへ駈けて行くと、半纒の襟にすがらんばかりにして、

「おお、これは先生、……阿古十郎さん、いつも御機嫌よくて……」

顎十郎のアコ長は、有名な冬瓜顎をツン出して、

「挨拶などはどうでもいい。いったいぜんたい、どこへ行く」

「実は、府中まで急な用事がありまして、どうでも夕方までにむこうへ着かなくてはならねえという大早乗。いま威勢のいい駕籠をさがしているところなンです」

「おお、それはちょうどいい都合だった」

「えッ、ちょうどいい都合とおっしゃると……」

「俺の駕籠があいてるから、これに乗れ」

「じょ、じょ、ご冗談……」