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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

01 捨公方

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,022 字 · 36 页

青空文庫

「やあ、どうもこいつは弱った。……お願いというのはいったいどんなことけえ。……気が急くからね、手ッ取り早くやってくだせい」

「どうやらあんたは甲府訛。……あちらのほうからいらした方なの」

「わしゃあ甲府の郷士の伜でね、江戸へ出るのはこんどが始めてだ。……それはそうと、いってえ、どんな科であんなえれえ目にあっていなすったけえ」

「あたしは本性院様というお局の側仕えで八重というものですが、あたしがさるお大老の悪事を知っているばかりに、いろいろなやつが寄ってたかって、あたしを殺してしまおうとしますの。……あなたは見たから知っているでしょう、こんな脆弱い女一人を、大勢の男であんなひどい目に逢わせるんです。……ねえ、あなた、あたしを気の毒だと思わない?」

「それは、まあ、気の毒だと思う」

「あたしに力を貸して、助けてくれる気はなくって」

「事柄によっちゃ力を貸してもいいだが、それは、いったいどんなこと」

お八重は、顎十郎の膝に手をかけて、

「ほんのちょっとしたことなの。……江戸、竜ノ口の評定所というところの腰掛場に、目安箱という箱がさがっていますから、それを持って来ていただきたいの」