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あごじゅうろうとりものちょう

顎十郎捕物帳

久生 十蘭

01 捨公方

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,022 字 · 36 页

青空文庫

……さればこそ、こうして待ちおった甲斐があったというものじゃ」

顎十郎は、すっかり照れて、首筋を撫でながら、

「こりゃどうも……。せっかくのお褒めですが、それほどのことはない。……生れつき、ぽんつくでしてね、いつも失敗ばかりやりおります。……今度もね、甲府金を宰領して江戸へ送るとちゅう、何だか急に嫌気がさし、笹子峠へ金をつけた馬を放りだしたまま、上総まで遊びに行って来たという次第。……とても、賢達の理才のというだんじゃありません」

のっそりと跼んで、

「まあ、しかし、褒められて腹の立つやつはない。おだてられるのを承知で乗りだすわけですが、二十一日も飲まず喰わずで手前を待っていたとおっしゃるのは、いったいどういう次第によることなんで」

「じつは、少々、難儀なことをお願いしたいのじゃ」

「いいですとも。……金はないが、これでも暇はありあまる男。……せいぜい褒めてくだすったお礼に、手前の力に及ぶことなら、どんなことでもお引きうけしましょう。これで、いくらか酔興なところもあるのです。……それで、手前に頼みとおっしゃるのは?」

「あなたがこの仕事をやりおうせて下されば、国の乱れを未然に救うことが出来る」