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かぜにのってくるコロポックル
風に乗って来るコロポックル
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第一巻」河出書房、1951(昭和26)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,458 字 · 39 页
そして、南側には彼の飲料水を供給する澄んだ小流れが、ササササ、ササササと走っている。その他には何もない。この寂寞(せきばく)のうちに、四方を茅で囲った新らしい小屋が、いかにも可愛い巣のように、イレンカトムと、二代目の黒とを迎え入れたのである。
彼は、思い付く毎に小屋の戸口に立っては、足跡で踏み堅めた小道の方を眺める。また或るときは、彼方の小山に昇って、遠く下を通っている往還を眺める。
沢山の荷馬が通ることもある。
勢のいい自転車が、キラキラと車輪を光らせながら小燕のように走(か)けるときもある。
または、四五年前に豊がしたように、鞭を廻し廻し馬車を追って行く子供もある。
人が通り、車が通り、犬が馳ける……。けれども彼の待っている物は見えない。
実(まった)く、イレンカトムは、昼でも夜中でも、西側の小山の路へ、ヒョイとせり出しのように現われて来る唯一の、若い、美くしい頭を待ちに待っていたのである。
「飛んで来い」はいつも、きっと元の場所まで戻って来るときまっているだろうか?
けれども、イレンカトムは待っていた。そして、出た者は必ず戻って来ることを信じている。