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かぜにのってくるコロポックル
風に乗って来るコロポックル
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第一巻」河出書房、1951(昭和26)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,458 字 · 39 页
小屋の中じゅう、どこへ行っても、何ものかが満ち蔓(はびこ)っていて、自分を拒絶したり、抵抗したりするような心持のするイレンカトムは、じっと一つ処に落付いてはいられない。
知らず知らず、ブツブツと口小言を云いながら、あちらこちらと歩き廻る。
そして歩き廻りながら、眠りもしないで、こんなことをしている自分は普通でないなと思って来る。
一体どうしてこうなのだろう?
彼は、炉の火を掻き起して、明るくしたり、パタパタと何かを払うように耳を叩いて見たりする。けれども、益々、心持は落付かない。どうもおかしい。このとき、彼の心には、明かに、「夜」に対する伝説的恐怖が目覚めて来るのである。
怪鳥が人間の魂を狙って飛び廻るとき、死人が蘇返って動き出すとき、悪霊、死霊が跳梁するとき、それが、彼の子供のときから頭に滲(し)み込んでいる夜の観念である。
暗い夜に外を歩くと、化物に出会って、逃げる間もなく殺されるぞと云われ云われした彼は、今もなお、囲い一重外の夜、闇に対して、深い恐怖と神秘とを抱いている。
その遺伝的な恐怖が湧き上ると、彼は居堪れないように成って、神々に祷りをあげる。