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かぜにのってくるコロポックル
風に乗って来るコロポックル
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第一巻」河出書房、1951(昭和26)年6月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,458 字 · 39 页
彼の父、父親の父、祖父の父というような、遠い昔の人々が命懸けで獲った熊の皮等と交換に、ようよう一つ二つと溜めて行った蒔絵の器具、太刀の鞘(さや)、塗膳等という宝物(イコロ)は、土地家畜等と同様な、或るときにおいてはより以上の価値を有っていたものである。そして、今もなお、他の由緒ある家系のアイヌがそうである通り、彼もそういう物に偉大な尊敬を払って、それを失い穢すことを畏れているのである。
完く、イレンカトムは、譲るべき財物と共に、豊の帰る日まで、彼の手に渡る日までさえ確に生きていれば好かったのである。
けれども、追々には、コロポックルまでが、宝物を強請するように成って来たとき、イレンカトムの心は、どんなに乱されたことであろう。
コロポックルは、赤い膳を呉れろの、彫りのある鞘を寄来(よこ)せのと云う。そして遣られないと叱り付ければ、いろいろな罵詈雑言(ばりぞうごん)を吐いて、彼を辱しめる。
吝嗇坊(けちんぼう)だと云って、人は皆嘲笑っているぞと云ったり、自分独りで沢山の宝物(イコロ)を隠しているから、見ろ、部落中の者がお前を憎んでいるのを知らないか、と云ったりする。