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かぜにのってくるコロポックル

風に乗って来るコロポックル

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第一巻」河出書房、1951(昭和26)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,458 字 · 39 页

青空文庫

確かに醜くはない。

澄み渡った声で悪口を云いながら、ちょっと左の方へ歪める意地悪そうな真赤な唇。いつも皆を鼻で遇(あしら)うようにジロリと横目を使う大きな眼。それ等は色彩の濃い、田舎のハイカラ洋服ときっちり調和して、狭い御者台の上にパッと光っていたのである。

馬の扱いが巧者になるに連れて、豊は煙草の持ちかたも、酒の飲みかたも覚えた。

いつの間にかは、馬車賃をちょろまかすことも平気になって、イレンカトムが黒を相手に、ポツポツと種を蒔き、種を刈入れている間に、豊の生活は彼の想像も及ばないように変って行った。

昨日までの子供であった豊の目前に、急に展開せられた種々雑多の世界に対しても、彼は矢張り、「すかんぼう」を振り廻して飛んで行った息子である。

行かれる処へ大胆に、陽気に侵入して行く彼の勇気を傷けるものは何もない。

自分の行為を判断する道徳も、臆病も、持ち合わせない彼にとって、煽動(おだて)の御輿(みこし)に王様然と倚りながら、担ぎ廻られることは決して詰らないことではない。

ただでは云わないお世辞で、自分の容貌、技(うで)等に法外の自信を持った十七の彼は、借金も自分の代りに償ってくれる者を控えている心強さから、存分の放埒(ほうらつ)をした。