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かぜのたより
風の便り
1942(昭和17)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,044 字 · 66 页
卑怯であると思う。横着であると思う。作品に依らずに、その人物に依ってひとに尊敬せられ愛されようとさまざまに心をくだいて工夫している作家は古来たくさんあったようだが、例外なく狡猾な、なまけものであります。極端な、ヒステリックな虚栄家であります。作品を発表するという事は、恥を掻く事であります。神に告白する事であります。そうして、もっと重大なことは、その告白に依って神からゆるされるのでは無くて、神の罰を受ける事であります。自分には、いつも作品だけが問題です。作家の人間的魅力などというものは、てんで信じて居りません。人間は、誰でも、くだらなくて卑しいものだと思っています。作品だけが救いであります。仕事をするより他はありません。君の手紙を読むと、君は此頃ひどく堕落しているという事が、はっきりわかります。いい加減であります。君はまさしく安易な逃げ路を捜してちょろちょろ走り廻っている鼬のようです。実に醜い。君は作品の誠実を、人間の誠実と置き換えようとしています。作家で無くともいいから、誠実な人間でありたい。これはたいへん立派な言葉のように聞えますが、実は狡猾な醜悪な打算に満ち満ちている遁辞です。