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かぜのたより
風の便り
1942(昭和17)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,044 字 · 66 页
はばかりながら人に不義理はしていねえ、という事だけが、せめてもの唯一の誇りのようであります。その誇り一つで生きているものです。どうか、お怒りなさらず、お納め下さい。あの山の中の、つまらぬ温泉宿に、あなたがおいでになったと女中から通知された時には、私は思わず、ひえっ! という奇妙な叫び声を挙げました。あなたもずいぶん滅茶なひとだと思いました。お葉書に書いてはございましたが、まさかと思って、少しもあてにはしていなかったのです。あなたの年代の作家たちは、へんに子供みたいに正直ですね。私は呆れて、立ち上ったら、「ひでえ部屋にいやがる。」と学生みたいな若い口調で言って、のっそり私の部屋へはいって来られた。思っていたよりも小柄で、きれいなじいさんでした。白い歯をちらと見せて笑って、「鶯が六羽いるというのは、この襖か。なるほど、六羽いる。部屋を換えたまえ。」とせかせか言いました。あなたは、あの時、てれていたのではないでしょうか。てれがくしに、襖の絵の事などおっしゃったのではないでしょうか。私が意味もなく、「はあ」と言ってお辞儀をしたら、あなたも、ぎゅっとまじめになって、「僕は井原です。