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かぜはかせ
風博士
「青い馬 第二号」岩波書店、1931(昭和6)年6月1日
N1 · 挑战 · 新字新假名 · 5,389 字 · 11 页
愉快にも余は臀部及び肩胛骨に軽微なる打撲傷を受けしのみにて脳震盪の被害を蒙るにはいたらなかったのであるが、余の告訴に対し世人は挙げて余を罵倒したのである。諸君はよく余の悲しみを計りうるであろう乎。
賢明にして正大なること太平洋の如き諸君よ。諸君はこの悲痛なる椿事をも黙殺するであろう乎。即ち彼は余の妻を寝取ったのである! 而して諸君、再び明敏なること触鬚の如き諸君よ。余の妻は麗わしきこと高山植物の如く、実に単なる植物ではなかったのである! ああ三度冷静なること扇風機の如き諸君よ、かの憎むべき蛸博士は何等の愛なくして余の妻を奪ったのである。何となれば諸君、ああ諸君永遠に蛸なる動物に戦慄せよ、即ち余の妻はバスク生れの女性であった。彼の女は余の研究を助くること、疑いもなく地の塩であったのである。蛸博士はこの点に深く目をつけたのである。ああ、千慮の一失である。然り、千慮の一失である。余は不覚にも、蛸博士の禿頭なる事実を余の妻に教えておかなかったのである。そしてそのために不幸なる彼の女はついに蛸博士に籠絡せられたのである。
ここに於てか諸君、余は奮然蹴起したのである。