轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ふろをかうまで

風呂を買うまで

岡本 綺堂

「読売新聞」1924(大正13)年7月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,387 字 · 5 页

青空文庫

その婦人もこの近所に避難している人であることを予て知っているので、薄ら寒い秋風に靡いているその薄の葉摺れが、わたしの暗いこころを一としお寂しくさせたことを記憶している。

わたしはそれから河野義博君の世話で麻布の十番に近いところに貸家を見つけて、どうにか先ず新世帯を持つことになった。十番は平生でも繁昌している土地であるが、震災後の繁昌と混雑はまた一層甚だしいものであった。ここらにも避難者が沢山あつまっているので、どこの湯屋も少しおくれて行くと、芋を洗うような雑沓で、入浴する方がかえって不潔ではないかと思われるくらいであったが、わたしはやはり毎日かかさずに入浴した。ここでは越の湯と日の出湯というのに通って、十二月二十二、二十三の両日は日の出湯で柚湯に這入った。わたしは二十何年ぶりで、ほかの土地のゆず湯を浴びたのである。柚湯、菖蒲湯、なんとなく江戸らしいような気分を誘い出すもので、わたしは「本日ゆず湯」のビラをなつかしく眺めながら、湯屋の新しい硝子戸をくぐった。

宿無しも今日はゆず湯の男哉

二十二日は寒い雨が降った。二十三日は日曜日で晴れていた。どの日もわたしは早く行ったので、風呂のなかはさのみに混雑していなかったが、ゆず湯というのは名ばかりで、湯に浮んでいる柚の数のあまりに少いのにやや失望させられた。