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ふうきんとさかなのまち
風琴と魚の町
林 芙美子
「改造」1931(昭和6)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,372 字 · 27 页
一度は食べてみたいと思ったおばさんの、内職の昆布が、部屋の隅に散乱していた。五ツ六ツ私は口に入れた。山椒がヒリッと舌をさした。
「生きてあがったとじゃから、井戸浚えもせんでよかろ」
朝、その水で私達は口をガラガラ嗽いだ。井戸の中には、おばさんの下駄が浮いていた。私は禿げた鏡を借りて来て、井戸の中を照らしながら、下駄を笊で引きあげた。母は、石囲いの四ツ角に、小さい盛塩をして「オンバラジャア、ユウセイソワカ」と掌を合しておがんだ。
曇り日で、雨らしい風が吹いている。
父は、着物の上から、下のおじさんの汚れた小倉の袴をはいて、私を連れて、山の小学校へ行った。
小学校へ行く途中、神武天皇を祭った神社があった。その神社の裏に陸橋があって、下を汽車が走っていた。
「これへ乗って行きゃア、東京まで、沈黙っちょっても行けるんぞ」
「東京から、先の方は行けんか?」
「夷の住んどるけに、女子供は行けぬ」
「東京から先は海か?」
「ハテ、お父さんも行ったこたなかよ」
随分、石段の多い学校であった。父は石段の途中で何度も休んだ。学校の庭は沙漠のように広かった。四隅に花壇があって、ゆすらうめ、鉄線蓮、おんじ、薊、ルピナス、躑躅、いちはつ、などのようなものが植えてあった。