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ふうきんとさかなのまち

風琴と魚の町

林 芙美子

「改造」1931(昭和6)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,372 字 · 27 页

青空文庫

風琴は材木の上に転がっている。

子供達は、不思議な風琴の鍵をいじくっていた。ヴウ! ヴウ! この様に、時々風琴は、突拍子な音を立てて肩をゆする。すると、子供達は豆のように弾けて笑った。私は占領された風琴の音を聞くと、たまらなくなって、群集の足をかきわけた。

「ええ――子宮、血の道には、このオイチニイの薬ほど効くものはござりませぬ」

私は材木の上に群れた子供達を押しのけると、風琴を引き寄せて肩に掛けた。

「何しよっと! わしがとじゃけに……」

子供達は、断髪にしている私の男の子のような姿を見ると、

「散剪り、散剪り、男おなごやアい!」と囃したてた。

父は古ぼけた軍人帽子を、ちょいとなおして、振りかえって私を見た。

「邪魔しよっとじゃなか! 早よウおッ母さんのところへ、いんじょれ!」

父の眼が悲しげであった。

子供達は、また蠅のように風琴のそばに群れて白い鍵を押した。私は材木の上を縄渡りのようにタッタッと走ると、どこかの町で見た曲芸の娘のような手振りで腰を揉んだ。

「帯がとけとるどウ」

竹馬を肩にかついだ男の子が私を指差した。

「ほんま?」

私はほどけた帯を腹の上で結ぶと、裾を股にはさんで、キュッと後にまわして見せた。