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ふうちそう
風知草
宮本 百合子
「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页
ひろ子にとって、ずばりと後家のがんばりを警告してくれるのが、良人である重吉よりほかにない実際だとすれば、本当に後家になった日本の数百万の妻たちには、誰が親身にそのことを云ってくれるのだろう。一生懸命に暮せばこそ身につきもするそういう女のがんばりについてその一途さにねうちがあるからこそ、一方のひずみとして現れるがんばりは、もっとひろやかで聰くより柔和なものに高められなければならないのだと、誰が、良人のいない、暮しのきつい後家たちに向って云ってくれるのだろう。そして、がんばらずに生きられる条件を見出してくれるのだろう。それを思うと、自分をこめて、ひろ子の眼ににじむ涙があった。
床の上に立って着換えをする重吉に、寝間着の紐をわたしながら、ひろ子は、愛称のようにゆっくりと、
「石田さん」
重吉の姓をよんだ。
「わたしは、あなたから後家のがんばりを云われるのだと思うと、本当の後家さんにすまないように思うわ。知っていらっしゃる? つやちゃんだって後家さんなのよ」
重吉の弟の直次は、広島で戦死したのであった。
三
遠い郊外へ出勤する重吉の外出が、段々規則的になり、来客が益々ふえ、隠されていた歴史の水底から一つの動きが、渦巻きながらその秋の日本の社会の表面に上昇しはじめて来た。