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ふうちそう
風知草
宮本 百合子
「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页
そして、ひろ子がひとまわりして、もとの円い木椅子に戻って来たとき、重吉は、
「二人でいると、ちっとも退屈じゃないねえ」
そう云った。
ひろ子は、重吉の顔を見た。重吉の眼は柔かく、睫毛に美しいかげりがある。ひろ子は、思わずまだ立ったままでいた自分の位置で借り着の重吉の大きい肩に手をおいた。重吉が感じたままを云った素朴な表現は、今二人でこうしていると何とはなしのたのしさにつれ、彼の十二年の獄中生活はどんなに単調な、変化のない時間の連続であったかということを、まざまざとひろ子に告げたのであった。
「でも不思議ねえ、わたしたち一人で暮していなけりゃならなかったとき、退屈だとは思ってなかったでしょう」
「そりゃそうだ」
「わたしなんか寂しいということさえよくわからなかったぐらいだったわ」
ひろ子の眼の裡を深く眺めて、やがて重吉が何か云おうとしたとき、
「やあ、どうも大変失礼しました」
眉根の太い、小柄な吉岡が戻って来た。
「ここで養成された看護婦さんの巣立ちだもんだから、どうも手間どって」
実験用テーブルの上の、つつましいピクニックのあとを見まわした。
「いもはどうでした。