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ふうちそう
風知草
宮本 百合子
「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页
日向をさけて、建物のひさしの下によって佇みながら、ひろ子は、この女のひとたちの集っている光景を美しいと思って眺めた。そこにはいろんな顔をした子供たちがいる。その母たち一つ一つの顔には生きて来た経歴が表情となって刻み出ており、しかも、このひとときの共通な信頼にくつろぎ、秋の日向にかたまっている。目に見えない旗日があった。ひろ子は、この広場の上を、いまおだやかにことなく過ぎてゆく時の流れの深みを、感動なしに感じることが出来なかった。
「どうしたんでしょう……もうそろそろ二時ですよ」
腕時計を見た一人がつぶやいた。集りは一時から開かれる予定であった。
「きいて来ましょうか」
建物の中へその人が入って行った。そして髯を生やした小柄な男と一緒に現れた。その髯をつけたひとは、ちょっと片手を腰に当てる恰好で、
「徳田さんは今地方から来た人と会議中ですから、それがすんだらすぐはじめます。すみませんがもう少し待って下さい」
もう一遍、
「会議がすめば、つづいてすぐやりますから」
とくりかえした。よく響く声のたちで、眼や額の皮膚は清げなそのひとが、どういうわけか小柄な体にすこしあかっぽい大髯をつけて、年のわからないような威風あたりを払っている様子にはユーモアがあった。