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ふうちそう
風知草
宮本 百合子
「文芸春秋」1946(昭和21)年9~11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,107 字 · 88 页
婦人ばかりがぎっしりつまった狭い室だが、開けはなされた二つの大窓から流通する光線と大気とは、すがすがしくて、秋の午後の清潔なぬくもりが室じゅうにとけている。窓からは遠く森や丘のつらなった外景と、その上の空が見えていて、風景は骨組の大きい一人物の肖像のバックをなした。深くはげ上ったかたい前頭。熱中して性急に話すにつれて、その主張をききての心の中へ刺しこもうとするように動き出す右の手と人さし指の独特な表情。引きしまって、ぼやついたところのない音声と、南方風なきれの大きい眦。話につれて閃く白眼。その顔のすべての曲線が勁く、緊張していた。博い引例や、自在な諷刺で雄弁であり、折々非常に無邪気に破顔すると大きい口元はまきあがり、鼻柱もキューと弓なりに張っている。ひろ子は自分が美術家であったら、この、独特な、がっちりと動的に出来上った人物をどういう手法であらわすだろうと思った。一番ふさわしいのは、永年かかって、漆で塗りかためた乾漆であると思えた。顔全体が赧みがかった茶色で、眦を黒々と、白眼を冴えて鼻は大きく、そこにどんな雨がふりそそごうと、その雨は粒々になって鼻のさきや顎、額からころがりおちてしまって、ちっともしんはぬれもくさりもしない乾漆のつよさ。