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ふうぼう
風貌
小山 清
――太宰治のこと
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,448 字 · 32 页
三鷹駅のプラットホームで、太宰さんは私をかえりみて、「今日は不幸中の幸だったね。」と云った。短い間だが、会えてよかったという意味である。立川行の電車が来て、太宰さんは電車に乗る間際に、「思案に余ることがあったら、いつでも相談に来給え。」と云った。
帰ると、行き違いになった葉書が来ていた。原稿を、さまざま興味深く拝読いたしました。生活を荒さず、静かに御勉強をおつづけ下さい。いますぐ大傑作を書こうと思わず、気長に周囲を愛して御生活下さい。それだけが、いまの君に対しての、私の精一ぱいのお願いであります。こんな文面であった。私の原稿は家庭になじまず自分のうちに閉じ籠っている少年の手記で、私はそれに「わが師への書」という題をつけていた。
翌年の六月の中旬のこと、私はふいに三鷹へ行きたくなって、夕刊の配達を済ますと、飛んで行った。三鷹に着いたらもう夜になっていた。太宰さんは校正刷に目を通していた。帽子掛に皮のケースに入ったカメラがぶるさがっているのが目に着いた。隣室から赤子の泣き声が聞え、床の間には井伏としるした祝物が飾ってあった。園子さんが生れたのである。