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ふうぼう

風貌

小山 清

――太宰治のこと

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,448 字 · 32 页

青空文庫

太宰さんも「金色夜叉はいつ見てもいい。」と相槌を打った。おかみもそれに口を挿んだ。私たちの間には一しきり金色夜叉礼讃の話がもてた。私は前に太宰さんから、井伏さんと太宰さんとで、やはり甲府のある家で、その家の飼育している鶏を褒めたという話を聞いていた。「いや、それから井伏さんと二人でほめたの、ほめないのって。」とそんなふうに太宰さんは私に話した。鶏をほめたのだって、たいして芸のある話ではないが、そのときの金色夜叉礼讃に至っては、それ以上に迂遠きわまる話である。それでもよくしたもので、おかみは女中さんを走らせて、「液体のようなもの」を都合してくれたのだから妙である。その夜井伏さんの口から、太宰さんの「姥捨」に出てくる女の人が、遠い土地で逝くなったという話をきいた。身のまわりにはハンドバッグ一つしか残っていなかったそうである。太宰さんには初耳のようであった。井伏さんは「そうか。君は知らなかったのか。」そんなふうに云われた。それから井伏さんは「作家というものは、身うちを食ってしまうよ。」と云った。井伏さんは梅ヶ枝に泊ることになって、二人で水門町のお宅に帰る途中、太宰さんは「井伏さんって、興奮させるところのある人だろ。