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ふうぼう

風貌

小山 清

――太宰治のこと

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,448 字 · 32 页

青空文庫

裏はすぐ小川を隔てて埼玉に隣りしているような閑静な処である。いい天気の日など窓をあけて外を眺め、ああこんな日は三鷹訪問なんだがと思う。外を歩くとあちこちに新築家屋が見られる。こぢんまりした三間位の家が多い。庭先に山吹の花なんか咲いているのを見かけると、私はと胸を突かれる。しめきった障子の静かなたたずまいに気を惹かれ、すぐには去り難い思いのすることがある。太宰さんを訪ねるようになった頃の三鷹の家のことが思われてならないのである。

私が初めて太宰さんを三鷹の家に訪ねたのは、太宰さんが甲府から三鷹へ移った翌年で、昭和十五年の十一月の中旬であった。ちょうど太宰治さんが新潟の高等学校から招かれて、講演に行く直前であった。

私はその頃、下谷の竜泉寺町にある新聞店の配達をしていた。太宰さんを訪ねる前の晩、私は吉原の馴染の女の許へ行った。部屋で女の来るのを待っている時間に、私は唐突に明日太宰治を訪ねようと心をきめた。そのとき女は少し私を待たせすぎたのである。私は前に、砂子屋で発行した「女生徒」の奥附に甲府の御崎町の住所がしるしてあるのを見て、甲府へ行ってみようかと思ったこともある。