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ひだのかお
飛騨の顔
「別冊文藝春秋 第二三号」1951(昭和26)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,316 字 · 31 页
ヒダの嫡流が負けて亡びたとき、ヒダにあった主要な皇陵はあばかれて持ち去られ、神社の神体も、仏寺の仏像も焼かれたり持ち去られたりしたろうと思われます。しかし、そのとき、わずかながら隠されて残ったものがある。その寺はワケあって再建されないが、名もないお堂のようなものの中に、秘密の仏像だけが今も残って伝わるような事実がありうるような気がする。バクゼンとそういうことが考えられるのである。
しかし、そういうことは過去に於て公然と言いうることではなかったから、何寺や何堂に古代の何があるという確かなことは文献的には知り得ない。過去に庶流の朝廷を認めずに闘争的だったヒダ人も、千年の時の流れに祖先の歴史を忘れきってしまってもいる。
――せめてヒダ人の顔がいくらかでも残っておれば、それだけでもホリダシモノだな……
私はヒダの旅にでるときバクゼンとそう考えて、そこにだけ多少の期待をもっていたのであった。
★
ドシャブリのクラヤミに下呂へついた。長い梅雨のあとに更に昨日来の豪雨で、谷はあふれ、発電に支障してか、停電でもあった。
私はヒダの第一夜を下呂でねようとは思っていなかった。