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うえはさいぜんのソースか
飢えは最善のソースか
石川 欣一
「あまカラ 3月号 第七十九号」甘辛社、1958(昭和33)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,579 字 · 6 页
罐詰類は重いので、せいぜい福神漬か大和煮を、それもたくさんは持っていかず、動物性蛋白質は干鱈だった。飯をたき味噌汁をつくった焚火のおきに、縦半分にさいた干鱈をのせ、アッチアッチと言いながら指でちぎって食うのである。満腹はするがちっともうまくないので、東京へ帰ったら何を食おう、あれを食おうと、第一日の晩から食物の話ばかりで、事実東京へ帰って腹をこわしたりした。それでいて翌年の夏には同じことを繰り返すのだから、山の魅力は大したものである。
いつだったか本格的なアルピニストであるI・A・リチャーズ夫妻と一緒に、後立山を歩いたことがある。籠川を入っていくと松虫草が咲いていた。暑い日で一同かなり参っていたが、リチャーズはこの花を見て、外側に滴が露になってついているカクテル・グラスを思い出し、「初日からそんなことを言い出すとは、out of form だ」と奥さんに叱られた。こうなると英国人も日本人も同じである。ところがこの旅で、番人のいる唯一の小舎に罠でとった兎があり、その肉を持参のバタでいため、はこび上げてあったビールで流し込んだ時、リチャーズはこんなに贅沢な山小舎は世界じゅうにないと感激した。