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きがちたいをあるく
飢餓地帯を歩く
下村 千秋
――東北農村惨状報告書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,478 字 · 31 页
三
国のために勇敢に戦って、いさぎよく戦死をしろ、とな。そうすりゃ。なアおかみさん、なんぼか一時金が下って、わしらの一家もこの冬ぐらいは生き伸びるだからな。娘を持ってるものは娘を売ることが出来るだが、わしは、息子しか持たねえから、そうして息子を売ろうと考えてるだよ……」
その男は、これらの言葉を、土間の土に向って一つずつ叩きつけるように叫んだのであった。
三
「西部戦線異状なし」の中に、地上で戦争をする兵士に取っては、大地は、地べたは、土は、母の懐である。大地のみが守護してくれる。その大地の有り難さを知るものは、戦場に於ける兵士以外の者には全く解らないものだ、という意味のことが書いてあるが、百姓達に言わすれば、百姓達に取っても、大地は、土は、母の懐であるのだ。一切であるのだ。土の有り難さを知るものは、百姓以外の者には全く解らないものだ。
その大地が、その土が、今年は、一切の食物を実らせなかったのである。母の懐は、死人の懐と化してしまったのである。その最大の原因は、五月の稲の植付時から、九月の稲の実る節まで、僅か数日を除いた他の百数十日は、只の一日も平年の温度には達しなかったためであった。