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えさ
餌
宮本 百合子
「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房、1953(昭和28)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,445 字 · 7 页
庭へついと、遠い遠い彼方の空の高みから、一羽の小鳥が飛んで来た。すっと、軽捷な線を描いて、傍の檜葉の梢に止った。一枝群を離れて冲って居る緑の頂上に鷹を小型にしたような力強い頭から嘴にかけての輪廓を、日にそむいて居る為、真黒く切嵌めた影絵のように見せて居る。囀ろうともせず、こせついた羽づくろいをしようともせず、立木の中の最も高い頂に四辺を眺めて居る小鳥の姿は、一種気稟あるもののように見えた。じっと動かない焦点が出来た為、私の瞳は、始めて動くともなく動いて行く白雲の流れにとまった。雄々しい小禽と一房の梢を前景として、初冬の雲が静かに蒼空の面を掠め、溶け合い、消え去って行く。――私はひとりでに、北方の山並を思い起した。今頃は、どの耕野をも満して居るだろう冬枯れの風の音と、透明そのもののような空気の厳かさを想った。底冷えこそするが、此庭に、そのすがすがしさが十分の一でもあるだろうか。
――間近に迫った人家の屋根や雨に打れ風に曝された羽目を見、自分の立って居る型ばかりの縁先に眼を移し、その間、僅か十坪に足りない地面に、延び上るようにして生えて居る数本の樹木を見守った時、私は云いようのない窮屈さを感じた。